美しい日本の邸宅 幻冬舎 日本の「美」の底流にあるもの
建築家 石出和博

森の朝。

太陽が大地を照らすにつれ、木々の枝葉はそよぎ、鳥や虫たちがせわしげに活動をはじめる。
大きく俯瞰すれば森の営み自体は何十年と変わらずに見えるが、森の細部は小さな生命たちによって絶えず変化を続けている。
木々たちは競うように葉を一杯に広げ、光を求め、時にはその枝を自ら落とす。
彼らの生の営みは、めまぐるしい変化の渦の中で、輝きを増していく。
森は変化することによって進化し、生まれ変わることによってその美しさを保っている。

これを俳諧の世界では不易流行と言った。
日本では、芸術やものづくりにおいて古くから志向されてきたもののひとつだ。
本物の伝統とは、単なる様式や意匠の伝承の事ではなく、長い歳月をかけて新しさを磨き、変化を重ね、時代の流れの中で再生され残されてきたものだ。
家づくりにおいても様式や伝統の基本の中に、モダンの精神を志向し積極的に変化させ、次の伝統につながる家づくりに挑戦しなければ意味が無いと思う。

この時代に生きた証としての使命感というか、覚悟というか、そんなうぬぼれに似た自己鍛錬がなければ建築などやるべきでないと、この歳になって思うようになった。
大げさかもしれないが、この時代の中で家をつくるということは、大自然の恩恵を受け、それを生かし、人を幸せにし、次につなぐ文化を創る。建築をつくることは未来をつくること、そのものだと思うのだ。

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