NHK「住まい塾」講師 石出和博と塾生たちのフリートーク 家は暮らしの容れもの。
帰りたくなる家、心が豊かになる家づくりを学びたい。

住む人の健康と地球にやさしい家づくりをテーマに、家族が楽しく暮らせる家づくりを学ぶ講座「住まい塾」(NHK文化センター主催)初めての講座開催から5〜6年目を数え、受講生の数も500名を超えています。これまで「住まい塾」を受講されたことのある3名の方々にお集まりいただき、講座で学んだこと、発見したこと、家づくりへの思いなどを、講師・石出和博とともに自由にトークしていただきました。

悩みを抱える方、建築が好きな方…、
塾生たちの参加理由はいろいろ。

石出 みなさんには「住まい塾」に熱心にご参加いただき、よいご縁を結ばせていただきました。今日は「住まい塾」を受講した感想などをお話しいただければと思っています。塚本さんは何度も受講してくださっていますね。

塚本 私は設計家になりたいと思ったくらい、建築が好きなんです。石出さんの「住まい塾」からは、学ぶところがたくさんありますし、参加していて楽しいので何度も受講しています。

宮部さんは、石出さんのところで家を建てられたんですよね。そのあとに「住まい塾」に通われたのはどういう動機だったのですか?

宮部 家を建てた後に、石出さんが講師を務める「住まい塾」がある、というのを見つけてきてくれたのは私の母だったんです。“石出さんの講座だから、きっとすごく面白いんじゃないかしら。行ってみたら"って(笑)。

石出 あのころは、私も慣れていませんでした。講義もつたなかったと思うんですよ。

宮部 いえいえ、毎回興味深くお話を聞いていました。特に「子どもを育てる環境としての家」という内容をよく覚えています。それに、家のこと以外にも、いろいろと有意義な時間を過ごさせていただいたんですよ。参加されていた塾生の方たちもいい方ばかりで、受講した後にランチに誘っていただいたり、年賀状のやりとりもさせていただいたり。ちょうど参加していたころは、子育てでぼろぼろに疲れていたので、自分のためにもとてもよい時間でした。

福富 私のところは98歳の母と私たち夫婦で、三人足すと240歳にもなる高齢者枇帯です。20年以上車いすで暮らしている母に、人生の最後を気持ちよく過ごさせてやりたいと思い、2年前に家を建てたのですが、建てたときから結露やつららがひどくて悩んでいました。どうにかして解決できないものかと困っていたところ、「住まい塾」を知って受講させていただきました。

大事にしたい「家」だからこそ。お互いを信頼する心で。

石出 「住まい塾」は、悩みを抱えて受講される方も多いですね。公的な相談の機関もあることはあるのですが、解決してもらうのは難しい。私は、福富さんのように困っている方のご相談を受けて、ハウスドクターとして相談者と業者の間に入ったことが何度もありますが、トラブルの解決は大変です。

塚本 衣食に関しては生活消費者センターなどの相談先がありますね。それに比べると住宅は何百倍、何千倍という値段にも関わらず、相談するところがないというのはとても残念ですね。

石出 人がすることですから、欠陥というのは起こり得るんです。たとえば、クロスにヒビが入ったり、タイルが浮いたりすることが絶対にないとは言えません。でも不都合があったときに、一生懸命直すことでまたご縁が続いたり、それを直しながら、大事に家を守ることが大切だと思うんです。

福富 そうですよね。人間のすることですから、不備もあるかと思うんです。不備があっても業者の方が誠意を持って対応してくだされば納得もできると思うんです。私の場合、自分の家を建ててくれた業者さんの、そこに不満を感じていました。たまたま住宅展示場に行ったときに建築家の人と出会って「うちは高齢者用の住宅を何棟も手がけているから」と言うので、それなら安心と思ったのですが、結露がひどいと相談したら、「住み方が悪い」と。信頼を裏切られた気がしました。

塚本 福富さんはお家のなかのバリアフリーということには満足していらっしゃるんですか?

福富 確かに車いすは通れるのですが、通れるだけではダメなんですね。車いすで廊下の突き当たりまで行ったら後ろ向きに戻らなくてはならない…。それでは不便ですから、実はHOPのスタッフの方にいっしょに考えていただいて、私のほうから設計士の方に変更をお顧いして直していただきました。

塚本 そうだったんですか。車いすを使う家の場合、回廊というんでしょうか、できるだけUターンしないですむようにということをいいますね。

福富 もし「住まい塾」の勉強会を先に受けていれば、こんなことにならなかったのに、と思っているんですよ。出席した何回かの講義は、私にとって、ほんとうに目からウロコが落ちるお話ばかりでした。

どんな家に住みたいか。
希望をいっしょにかなえてくれる建築家と巡り会いたい。

宮部 私も住宅展示場はいろいろ見ましたが、このHOPのモデルハウスを見たときには強烈にショックを受けました。ほかのモデルハウスとぜんぜん違いましたから。でも、その場ですぐには決めかねて。そうしたらHOPの方が「どうぞ他社の展示場もたくさん見ていらしてくださいね」って。そんなふうに言うところって珍しいでしょう?(笑)それでまたいろいろ見たんですけれど、やっぱりHOPがよくて、ぜんぜん気持が揺らぎませんでした。

石出 どんな家に住みたいのか、そのことをじっくりと考えることも必要ですけれども、その希望をいっしょになってかなえてくれる人に巡り会うことも大切ですね。

宮部 自分ではぜんぜん意識していませんでしたが、うちの母に“あなたは和のものが本当に好きなのね”と言われたことがあります。こちらのモデルハウスに来たときは、「雰囲気が好き!」とまず思ったんです。いままでこんなに自分の感性にぴったりくるものに会っていなかったし、こちらに来た後もいろいろ行きましたけど、結局それ以上のものはありませんでした。

石出 たまたま私も日本の伝統建築が好きで、古建築を独学で学んでいました。設計者の美意識は設計に出てきますよね。それが受け手にすっと入っていくというのは、すごく良い縁だと思います。

宮部 家を建てるとき、普通の業者さんは「予算に応じて、こういう住宅を」ということしか言わないけれど、HOPでは、設計の段階で、主人や私の趣味、ライフスタイル、どういうふうに暮らしたいかなどをずいぶん聞かれた記憶があります。
振り返ってみると、HOPには、「住む人のライフスタイルに合わせた住宅を」という思いが、打ち合わせの段階からきちんとあったんだと思います。子どものこともちゃんと考えて、設計していただいたと思いますね。

石出 ありがとうございます。家を建てるということは、その方の暮らしを建てるということではないでしょうか。どんなライフスタイルの方が、どのような価値観を持って、どんな家に住みたいと願っているのか。そういったことをきちんと伺っておかないと、本当にその人が住んでみてよかったと思える家を建てるのは難しいと思います。

愛着のある家だから、リフォームしたい。
手を加えるに値する家づくりが目標。

宮部 実際には10年20年先を見越して計画を立てるのは難しいけれど、子どもの成長も含めて、自分のライフスタイルをきちんと見つめるというのは大切なことですね。

塚本 家って子どもを育てる器みたいなところがありますでしょ。子どもを育て上げて、夫婦二人だけになってから器を建てるとなると楽しみも半減してしまいますよね。できるなら子どもが小さいときに家を建てて、生活の変化に合わせてまた家を直しながら住んでいけたら楽しいですね。そんなふうに手を加えるのに値する家を、最初から建てておけるといいですよね。

宮部 そうですね。石出さんが「住まい塾」のなかで、「いろいろと考えて建てても、完成して住み始めると“こうすれば良かった”“ああすれば良かった”という思いが必ず出るものだ。だからその時精一杯やってみるものだ」と言っていたことを思い出しました。
建てたときは精一杯の思いを聞いていただいて建てましたから、愛着があって大切に使いたいと思っています。

石出 それはすばらしいことなんですよ。建物に愛着があるからこそ、家をいじらないではいられないんです。3年くらい先までは見通していても、5年後なんてわかりません。必要なときに、基本的なことを変えないで、変化に合わせられるのが一番幸せなのではないでしょうか。

家は真剣勝負で建てておくべきだと思うんですよ。その時のベストを狙っていく。宮部さんのように、3年間満足して住めたら、趣味・思考も含めて、いろいろなことがレベルアップして、もっとこうしておけぱ良かった、という思いが必ず出てきます。宮部さんもあと何年か経ったら、きっとまた楽しい変化が出てくるんですよね。

宮部 確かに「住まい塾」のお話のなかで、ベストと思える家を建てて住むことで、住む人の価値観やライフスタイルがさらにまた高まっていく、と石出さんはおっしゃっていました。でもね、実は、当時の私は、「そうは思わない!私の家はこれで完璧!」と思っていました(笑)。

石出 金融公庫が調べたデータによりますと、建てた方の75%が、できた瞬間に不満なんだそうです。現状だけを見て家を設計すると、設計から完成までの5カ月くらいの間に建て主さんの意識が変わっていくものですから、建てたとたんに不満なんですよね。ですから宮部さんのように、できた時に完璧と思って、そのままの思いで何年か過ごせたというのは、かなりプランニングのレベルが高かったと思います。

家を大 事にすることは、家族を大事にすること。
だから“帰りたくなる家”を。

塚本 設計家の方だと、自分で自分の家をあれやこれやと手直しされるんでしょうね。うちは今のところ一度しか手直しをしていませんが、建ててからもう12年目に入りました。下の子どもが高校3年で、うまくいけば来年4月から夫婦二人になりますから、それが手を人れる時期かなと思っています。今は、リフォームの知恵というのを「住まい塾」の講義を通してプロから学ばせていただこうかと思っています。

石出 いい家は、住んでいると愛着が増しますね。たとえば旅行して変な宿に泊まるんだったら、家の方がいいと思うようになるんです。それに家を大事にするというのは、家族を大切にすることと同じことですね。家への愛着がなくなるとその家自体が嫌になって帰りたくなくなる。
それは悲しいことですよ。

塚本さんのお家は素晴らしいですね。ご自分でいろんな物を付け加えて、生活を楽しんでいらっしゃる。かなりプランを練られたんですね。

塚本 私の家は、ハウスメーカーに勤めてらした方が独立してはじめて設計した家でした。こちらの要望を聞いて、設計図を書いてきてくださるんですけど、それに対して私がああでもないこうでもないと言うものですから、最後には「方眼紙を差し上げますから、塚本さんのいいように描いてみてください。それが実現できるかできないかはこちらで判断させてもらいますから」とさじを投げられて。それからは自分でメジャーを持って、当時住んでいたマンションの外階段まで全部測って(笑)。

石出 お一人であそこまでプランされたなんて、すばらしいことです。すごく考えられている家ですよね。

塚本 あの家は私が建てたと思っています(笑)。自分で勉強して、自分でプランした結果ですから、その後で何かあってもしょうがないかと思っていますけど。今度建てる家はそうじゃない家をと(笑)。そのために「住まい塾」に通わせていただいています。

福富 私の場合は、家を建てるときにもっと時問があればよかったのに、という悔いが残っているんですよ。年齢的な条件から、融資を受ける期間が限られていましたので、時間に追われてしまいました。

石出 家を建てようということでは、たくさんの時間を費やされても、それが良い方向で設計者や業者と一つになっていかなければ、空回りしてしまいますね。家をつくるとき、欲しい家、住みたい形が思い描けたら、そのような家は誰に手がけてもらえばいいのか、というところを考えると良いのではないでしょうか。

日本の伝統や自然を守ること、豊かな感性を育てること。
家つくりから学ぷことはたくさんある。

宮部 HOPの家に住んでいて、近ごろ思うようになったのは、私はこういうふうに子どもを育てていきたいんだな、ということがはっきりとわかってきたことです。子どものおもちゃ一つとってみても、本物の木を使ったおもちゃがいいとか。子育ての途中で親子で学ぶことはたくさんあります。

石出 子どもの感覚や美意識というのは、親が教えるものですよ。親から子に受け継いでいくんですね。

塚本 親の影響や環境は大きいですね。私は息子が建築のほうに進んでくれたらと思っていたのですが、残念ながらそうはなりませんでした。でも、帰宅が遅くなった日など、息子が「あの家のところまで来ると、ほっとする」と言うんです。あの家というのはご近所の家のことなんですが、蛍光灯じゃない柔らかい明かりが外に漏れているのが見えて、それを見ると「ああ、家までもうすぐだ」って思うんだそうです。それが、たまたま石出さんが設計された家だと知って驚きましたけれど、息子もそんな感性があるのなら、建築家になれたかもしれませんね(笑)。

石出 子どもたちはものすごい感性を持っているんです。ただ、残念ながら今の学校教育では、感性を磨いたり、心を豊かにするための授業が少ないですね。

福富 石出さんが北海道の木を使って、北海道の林業を、森や自然を生かしながら守っていきたいと話されたことは、私もとても印象に残っています。強く感激いたしました。

石出 この先の日本のことを考えても、そういうことをちゃんと考えたり、伝えていくことは大事だと思っています。子どもたちに対しても、小学生や中学生といっしょに学ぶ森の教室ですとか、木と遊ぶ教室みたいなものをやりたいなと考えているところです。

宮部 そういう豊かな感性を身につけた子どもたちが育っていけば、日本の森を大切にしていくでしょうし、それが豊かな国土をつくっていくことになりますよね。そうして世界規模に広がっていくのではないでしょうか。日本を変えるためには、まず子どもたちの教育から変えていく必要があるのかもしれません。

塚本 本当にそう思います。私は良い子育てはしていませんけれど、心豊かな子どもを育てていかなければ、日本の伝統の未来も難しいですね。

石出 雑誌で読んだのですが、日本人には他人を「慮る心」(おもんぱかるこころ)というが極端に欠けてきているそうです。さらに各国で「自分の国を愛しているか」という質間をしたところ、「イエス」と答えた子どもの数は日本が最低だったそうです。経済だけでなく、子どもたちの心の面から豊かさを育てる。私たちみんながそういう役目を担っているのかなと思います。
「住まい造」でもそれができればと思っています。人の生き方や価値観がもっともっと豊かになっていけるような、そんな活動をしていきたいと思います。今日は楽しくお話をさせていただき、本当にありがとうございました。

出席者のご紹介


宮部 なお子 さん

3人のお子さん(6歳、小学校2年生、4年生)とご夫婦の5人家族。たくさんのモデルハウスを見学し、5年前にHOPで家を建てました。

塚本 千鶴子 さん

ご長男が親元を離れ、現在は高校3年生のご子息とご夫揚の3人暮らし。12年前に設計士と相談して家を建てました。 設計段階では、細部にわたって自分の意見を盛り込みました。

福富 路子 さん

98歳になるお母さんとご夫婦の3人暮らし。 住宅展示場ですすめられて家を建てま したが、 ひどい結露やつららなどで悩ん でいます。解決の方法を模索したくて、 住まい塾を受講しました。

石出 和博

建築家。HOP代表。 NPO法人「森をたてようネットワーク」設立に向けて準備中。 ハウスドクターとしてNHK文化センター 主催「住まい塾」、雑誌「リプラン」など


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