リプラン 雑誌取材 プロの言葉Vol.01
「家づくりは人生最大の遊び」

家づくりの最前線で活躍するプロを訪ね、これからの家づくりにあらかじめ知っておきたい考え方や基礎知識をうかがう取材シリーズ。
第一回目の今回、ご登場いただくのは札幌市に拠点を置くHOPグループ(株)代表取締役会長の石出和博さん。国内外の住まい手に時代を超えて愛され続ける上質で心地よい空間づくりの極意を、これまでのエピソードを交えて語っていただきました。

本物の素材と技術が出会ってはじめて育まれる成熟の美

留学先のアメリカで豊かな暮らしと住環境を目の当たりにしてからおよそ半世紀、日本で長年培われてきた伝統技法と美意識を背景とした、風土や環境に合った本物の建築を目指し、長らく追求してきました。

美しく上質な空間をつくるために欠かせないのが、本物の素材です。本物の素材を吟味し、適所に使うことで味わい深い建物ができあがります。しかし、自然素材を使えば、目指す心地よさが実現できるわけではありません。その魅力を知り尽くし、引き出せる高い技術力も必要です。そのどちらが欠けても、上質な空間は実現できません。

HOPは1997年、原木の伐採から加工、流通、建築設計までを協業化した新たな住まいづくりの形を確立しました。現在は森を育成しながら、国産材を生かした建築に取り組んでいます。さらに、1棟ごとに異なる細かな仕様に対応できるよう、札幌に自社工場を設け、熟練した職人が高い技術を持ってすべての建具や造作家具を製作しています。既製品を採用しないのは、質の高い空間を実現するためです。

そして、その技術を支えるものは、美意識や審美眼に裏付けされた精神的な側面だと私は考えています。設計の人、現場の人、大工さん、職人さんといった住まいづくりに関わる全ての人の「良いものをつくろう、美しいものをつくろう」という想いが出会ってはじめて、時を重ねても古びず、深まる空間ができあがるのです。

大切にしたいのは唯一無二の生き様の表現

住まいとは住まう人の生き方、人生の表現の場であると考えています。ですから、ただ高級なものが素晴らしいだとか、自然素材でつくれば高級だとかではなく、いかにその人らしいか、その生き様が表現できているかを貫いてきました。

近年、インターネットの急速な発達によって、道外はもとより、海外のお客様からのお問い合わせが日常的になりました。これからも住まいに求められる心地よさ、上質さはさらに多様化していくことでしょう。

私どもが出会うお客様は皆、それぞれに気品のある生き方をされていて、ご自分の身の回りのことから環境問題に至るまで、さまざまな想いを持たれています。私どもはその生き様をどう表現するかを一緒に考え、創り上げていきます。私が常に「家づくりは人生最大の遊び」と表現しているのは、そんな想いから素直に申し上げているのです。

住まう人をインスパイアし、日常をより豊かに変える空間を実現することこそが、私どもが目指す家づくりです。さまざまな経験を重ね、良いものを知り、触れてきた方々の人生を空間の中にどう表現していくか。本物の素材を生かした自分だけの心地よく美しい空間を手に入れたい、という住まい手の期待に応えるのみならず、期待以上の建物をつくることが私たちの使命なのです。

暮らしと文化への深い眼差し磨かれ続ける審美眼

私の建築の原点は、30代初めに任された茶室設計にあります。導かれるように茶の道に足を踏み入れ、長い間培われてきた日本の美意識と侘び寂びの精神を学びました。30年以上積み重ねてきた経験、見聞が今の仕事に生かされているのだと感じています。

長い間培われてきた日本人の美意識。それを理解するためには、多くのものを見て、触れて勉強しようとする気持ちが必要です。私どもの会社では、社員が美意識と審美眼を磨くためのあらゆる機会を与えるようにしています。「美しいものとは何か」を社員全員が理解すること、そして自分たちのつくる建物の良いところ、直さなければならないところを徹底的に議論することで、お客様にとって何が最良かを的確に判断できるようになるのです。

私どものお客様の中にも、家づくりを通じて美しいものは何か、自分にとっての価値あるものは何かを考えはじめ、探求の道に入られる方があります。私どもを家づくりのパートナーに選ばれたことがきっかけになり、現代美術の面白さに目覚めたお客様もいらっしゃいます。できるかぎり上質なものに触れる環境をつくり、心を豊かに潤す空間がどのようなものか具体的にイメージすることができれば、住まいづくりは最高の楽しみとなるでしょう。

Case.1 東京都・T邸

深い屋根と庇の陰影が生み出す重厚感。その外壁を彩るイタリアの花崗岩をはじめ、原石を輸入した大理石などの石材、プライベートスペースに使われている広葉樹、自然素材の美しさが際立つ唯一無二の邸宅がここに完成しました。

Case.2 札幌市・I邸

エントランスから和室、共用廊下へと和の設えを整えつつ、高い天井のリビングへと連続させる配置、大きな中庭とガラススクリーンなどを組み合わせ、外部の視線を遮断したプライベート空間としています。本格的な趣味を楽しみながら、2、3世代の同居も見据えた、可変性のある空間構成が特徴となっています。

Case.3 札幌市・K邸

高さ6mの吹き抜けを持つリビングのスケール感を、石張りの壁面、羽目板張りの天井、大型ペンダント照明などのバランスにより違和感なくまとめています。リビングの大窓には自然光による採光と採暖のためのガラスカーテンウォールを採用し、快適な環境も実現しました。

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●編集・発行/(株) 札促社  ●掲載/Replan vol.128 令和2年3月26日発売

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