リプラン 雑誌取材
HOPグループ「森を建てよう」が導くもの
100年先まで見据えた木と森の健やかな循環で実現する
持続可能な家づくり

家づくりの最前線開発目標としてSDGsが採択された後、日本でも産官学民でさまざまな取り組みが積極的に行われるようになりました。
同時に、「ウッドショック」と呼ばれる世界的輸入木材の不足や価格高騰によって、国産材を利用した住宅建築が改めて見直されています。
そのはるか以前から、独自の目線で地域の木材の活用、森林資源の保全に取り組んできたのが北海道を拠点とする「HOPグループ」です。その始まりからこれからの取り組みまで、代表取締役会長CEOの石出和博さんにお話をうかがいました。

遠くから運ぶ木材よりも地域の宝の山を活かす

HOPが誕生した1997年、日本の住宅の大部分がフィリピンやインドなどから輸入されるラワン材でつくられるのが当たり前でした。「北海道には戦後、炭鉱施設整備のために植林されたカラマツやトドマツが豊富にあるのに、なぜ誰も使ってこなかったのだろう、なぜ運搬コストをかけて海外から材を運ぶのだろうと、私には不思議でたまりませんでした」と、石出和博会長は振り返って語ります。

当時、カラマツやトドマツの間伐材は「曲がる、反る、割れる」と、家づくりには不向きな建材といわれていました。「それなら、使いやすいように加工したらいいのではないか」。そう考えたHOPは北海道林産試験場と協働し、その欠点を克服できる乾燥技術の開発に取り組みました。「ところが、温度と湿度の管理がとても難しくて。これだという技術にたどり着くまでに4年の歳月を費やしました」。

試行錯誤の末、確立した材の加工には二酸化炭素を出さない特殊乾燥機を採用。また、製材過程で出る木くずをリサイクルすることで、化石燃料の使用量も削減しました。これによって、北海道のカラマツやトドマツは使いにくい木材から一転、環境に優しい建材に大きく変貌を遂げたのです。その結果、カラマツやトドマツは北海道の家づくりに欠かせない建材になりました。また、日本を襲った「ウッドショック」の救世主としても、全国から高く評価されています。

さらにHOPでは、8割の建材が容易にリサイクルでき、75年以上の耐久性を実現する独自の4面スリット工法(特許取得)を開発。大切な森林資源をできる限りゴミにしない、無駄遣いしない家づくりにも積極的に取り組んでいます。

HOPと林産試験場が共同開発した特殊高温乾燥機

森を育み、守る精神を次世代に引き継ぐために

「地域の木を活かした家づくりで、北海道の森を元気にするお手伝いをしたい。それが私たちの家づくりの原点です。輸入材に頼らず、地域材を率先して使うことが、結果的に北海道の森林の育成と環境保全、林業の活性化にもつながると考えています」と、石出会長は話します。その想いは、設立当時から試みている「植育林のリサイクル」にも表れています。

間伐材の積極利用など、国産材での住宅建築を通して、森を活用しながら森を再生させ、森を守る活動を続けている

HOPでは、家を建てるために使った木材に相当する苗木を植樹し、50年後に植えた木を再び家づくりに活かす取り組みを行っています。「私たちが植えた苗木は、50年後には森の一部になり、新しい住まいの材料となります。HOPが設立時から掲げる"森を建てよう"という理念も、ここから生まれました」。

人々の環境意識の高まりにつれて持続可能な森づくりは、SDGsの「陸の豊かさを守ろう」という世界共通の目標とともに脚光を浴びています。しかし、HOPはそれよりも以前、26年前から森の自然サイクルに寄り添う取り組みを続けてきました。

さらに、50年先の森づくりを次世代に引き継ぐべく、2004年には「NPO法人 森をたてようネットワーク」を設立しました。地域の子どもたちと植林活動を行い、各地の小学校で木工教室や森や木に関わりの深い専門家、職人をゲストに招き「森の教室」を開催。二酸化炭素を吸収し、酸素を供給する木々や、水を貯え、多様な生態系を育む森林について、未来を担う子どもたちに、そのかけがえのなさをさまざまな角度から伝えています。「道産材や北海道の森の魅力を知ってもらう活動をこれからも全国に広げていきたいと思います。その取り組みで、森と一緒に未来をつくる子どもたちの心をも豊かに育むことができたら、とても幸せなことです」。

植林活動や木工教室、専門家・職人による「森の教室」などを通して、子どもたちの心を育む

常に挑戦し続ける心がこれからの道筋を拓く

独自の道産材活用と森の再生サイクルを実現するため、さまざまな革新的な取り組みを続けてきたHOPグループ。「この世にないものをどうつくるか、実現するか。誰もやらないことをやることに意味がある。これまでの世の中や私たちの当たり前にとらわれず、改革を続けていくことが100年後の未来につながるのだと思います」と、石出会長は話します。設計プレゼンテーションにメタバースを採用し、住み手と一緒に空間をつくり上げることを始めています。

また、昨年からは、札幌本社に隣接するモデルハウスの敷地内で、既に欧米等で普及が進んでいる地下核シェルターの設置工事を開始。これからの社会情勢を見据えた暮らしの安心を守る、HOPの新しい試みです。国内企業と独自に開発した、建物と直結する6帖大のシェルターは、HOPらしい木を生かした意匠で整え、井戸水と自家発電、空調、バイオマスのトイレなどのインフラも完備。シェルター内で2週間以上、暮らすことができます。室内環境を一定に保てるため、平時はワインセラー代わりにもなり、離れのように利用することもできるといいます。「以前から、お問い合わせいただいていたお客様に、ようやく胸を張って提案できるシェルターが実現できそうです」。

このシェルターは増築が可能なため、既に保育園などの施設での採用も検討されているといいます。カラマツやトドマツの建材のように、このシェルターもこれからの社会のスタンダードになっていくかもしれません。

「シェルターは、家づくりや森づくりとは異次元のもののように思われるかもしれませんが、持続可能な暮らしを守るという根っこは一緒。私はこれからも人を幸せにする事業家として、改革と挑戦を続けたいと思っています」と、石出会長は力強く語ってくれました。

これまで培ってきた技術と新たな発想で、「暮らしを守り、継続させる」使命のため、挑戦が続く
モデルハウスの敷地内にシェルターを設置する様子

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●編集・発行/(株) 札促社  ●掲載/Replan vol.140 令和5年3月28日発売

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