リプラン 雑誌掲載 茶室空間の演出
茶室空間の演出
お茶室は数奇屋でもあり独特の趣があります。
それは広すぎず高すぎず、気品高く侘びている。その空間で自然をいけ、こころとあそび、多忙な生活の中での一時美しさを五感で感じることができたなら、人間として深い喜びを織ることができるのだと思います。
そのような空間を造るには、結局先人の造った数奇屋や茶室に学ぶのが一番なのですが、茶室の建築には独特な技法が使われています。
大工は丸太と竹、石といった、曲線と曲線を組み上げる所作が必要になり、普通の住宅の建築とは異なる特殊技術と経験が必要になるのです。設計者はどの大工さんを指名するかというところから、すでに建築は始まっているといっても過言ではありません。
私は30年前、建築の設計をやるなら伝統建築や茶室建築をやろうと、宮大工の藤田工務店に就職しました。その時の社長、藤田辰雄さんは秋田の宮大工の3代目。偶然の出会いでした。
現場で大工仕事の基本や素材感をみっちりと叩き込まれ、10年目にアトリエアムという設計事務所を創りました。
念願かなって設計事務所の仕事を始めたのですが、私が設計する茶室や住宅を他の工務店や大工さんに頼んでも、希望する材料や細工で上手く造ることが出来ないのです。いつも心細い仕事になりました。
そこで私の設計するほとんどの作品は藤田工務店で施工を行うという、現在の構図が出来上がったわけです。
その経験から分かりやすくお話を進めますが、茶室には広間と小間があります。
四畳半の広さを基本とし、四畳半以上を広間、以下を小間と呼ぶのですが、では四畳半はどちらかというと、広間・小間いずれにも属することができます。
小間を草庵ともいい、利休は二畳敷を理想とし、侘茶の理想を追求しました。広間も小間も茶事を催す上でさまざまな配置や配慮が必要ですが、しかし単に使い勝手のよさだけを追求するのではなく、空間の構成や意匠、材料の取り合わせに創意が加わってはじめて洗練された侘び空間が生まれるのです。
茶室の間取りの基本は、客座に対して点前畳をどう配置するかによって定まります。
躙口(にじりぐち)と窓、そして天井のしつらい
炉の切り方には4通りあり、一般的には四畳半切と台目切、点前畳に切る入炉、向切、など全部で八炉と呼ばれています。ここでは誌面の関係で書けませんが、茶室の依頼を受けた設計者は、まず基本をしっかりと学び、その上で応用することが肝心と思います。
独りよがりの設計では水屋と客の動線が交差するとか、炉が逆勝手に切られていたりなどと思わぬ失敗を起こします。
茶室が別世界を創り出す場所なら、露地はその世界へと導くためのプロローグにあたります。
基本を抑えながらも遊びごころをもって
利休は、茶の湯は露地に入る時から始まるといい、すなわち露地は茶室と一続きの場と説きました。
小間の草庵は露地を通り、躙口から席入りします。人ひとりくぐって入れるだけの小さな入り口。ここには板戸がたてられていて、その板戸にも基本があり、板2枚半と決められています。これは、雨戸を切り詰めて使ったという侘び戸の気持ちの表現です。
躙口は高さ二尺二寸五分、横二尺一寸二分ほどです。躙口で一番難しいのは雨仕舞いで、板戸一枚で外界と接しますから、うまく雨を下に流す工夫が施されます。
窓は、茶室の雰囲気を創りだす上で一番気を使うところです。窓には下地窓、連子窓など天然の索材を生かした工夫があり、意匠的にもまた茶室独特の明るさの度合いをコントロールする意味でも、配置に細心の工夫と注意が払われます。
天井は、小間では変化を組み立てることを良しとし、平天井、落天井、掛込天井などを組み合わせます。その素材惑をどう取り入れるかが審美眼の現れるところとなります。
ここで間違わないことは、点前座(亭主の座る畳)の天井は客座より低いことが良いと思います。客座に対して下座であるという気持ちを表すことになります。
茶室建築は多くの職方の技術の集大成です。施主の様々な思いが込められた空間を表現するために、選ばれる索材は全部物語にならなければなりません。壁土の塗り、床柱、 框、落し掛、畳、襖和紙、戸手、炉壇などなど、全て産地や手法を決めますが、設計者は施主と一緒になって施主のために、人生最大の遊びが共にできなくてはならないのだといつも思っています。
そしてそこまでは考えていないというお施主様でも、茶室の空間や雰囲気を住宅の中に取り入れようとする場合、将来、茶道を本格的に始めようと思いたった場合のために、基本的なところを抑え、応用が利く平面構成をしておくことが肝心ではないかと思います。