[対談] キースロジャース×石出和博 ニセコの外国人住宅が教えてくれること

日本の精神文化を住まいの新たないのちに

石出 近年外国からのリゾート客がニセコにたくさんいらしていますが、キースさんの目から見て海外の皆さんは、ニセコにどんな価値を見いだしているのでしょうか?

キース オーストラリアやアジアの方にとってニセコの魅力は、まず世界有数のパウダースノーや温泉に代表される、豊かな自然です。そしてさらに重要なのは、ニセコが日本であることなのです。どういうことかというと、彼らは日本の伝統文化にとても興味がある。建築でいえば、例えば木や紙や畳がつくる、シンプルですがすがしい広がり。季節の変化とともにある、とても質素だけれど不思議に豊かな空間。彼らはそうしたものに、日本にしかない高い精神性を感じています。

石出 よくわかります。そしてそれらは、いまの日本では忘れられがちなのですが、この国が大切に守り伝えてきた美意識にほかなりません。さらに言えば、それは日本人の生き方の基礎にあったものだと思います。私は若いときに宮大工の技術を学び、今日まで北海道や京都などで茶室をつくってきました。日本建築の伝統に息づいてきたさまざまなデザインは、単なるうわべの意匠ではなく、この国の歴史風土が深く磨いてきた、四季の自然と呼び交わす「ものづくりの心やふるまい」そのものではなかったか。私はそう考えて仕事を続けています。

日本の精神文化を住まいの新たないのちに

Niseko P-residence/photo:Osamu Adachi

キース 私も日本の伝統建築の精神性に強くひかれる欧米人の一人です。しかし一方で、京都の町屋やお寺のような建築に彼らが住めるかというと、もちろんそうではない。日本文化の基本やエッセンスを高度に取り入れながらも、石出さんの設計する住まいにはモダンで洗練されたデザインや機能がいっぱいです。海外の方が石出さんに設計を依頼するのも、そのセンスや高いノウハウがあればこそ、ですね。

石出 海外のお客さまは、世界の第一級のデザインをよくご存知です。だから、茶室のような極めて小さな空間と、天井高5メートルで全面採光のリビングを共存させられないか、などといった大胆なアイデアを持っている。まるで自分の生き方を表現するように、世界にひとつしかない住まいをつくろうと、遊び心を持って楽しんでおられます。そうしたお客さまにとって、住まいというものはパッと選んでパッと買う「規格商品」では決してないのです。そしてデザイン面では、和の本質にしっかりと根ざしていれば、和と洋の折衷でも決してまがいものにはならず、世界に通じるデザインが成立します。もっともそのためには、素材が重要な鍵をにぎるのですが。

キース 形や機能だけがほしいのなら、プラスチックで十分。しかし石出さんは決してそうしませんね。そして欧米人の五感に訴える設計のポイントは、木の素材にある。

ニセコプロジェクトを手掛けるキース・ロジャズ氏と石出和博HOP代表

石出 その通りです。日本建築のクオリティの鍵をにぎるのは、上質な木の肌ざわりです。HOPグループ3社は国内で初めて、流通、設計、施工部門でSGEC(「緑の循環」認証会議)の森林認証を取得し、伐採から加工、流通までの履歴が明確な認証木材を使用しています。それはまた、北海道の森を元気にすることにつながる取り組みでもあります。こうして住まいづくりを森づくりと直結させること。そして、光合成の過程で二酸化炭素を吸収定着させた木材を、住まいという形にして美しい街並みを新たに作り出していくこと。それが私たちが唱える、「森を建てよう」という理念なのです。

キース 石出さんの取り組みは、はじめは無謀だと言われたと聞いています。しかしそうした長年の取り組みに対して、ベンチャーアワードの環境特別賞が贈られたわけですね。

石出 保守的な建築業界にあって孤軍奮闘してきた当社ですから、挑戦を評価されたことは大きな喜びでした。そして当社の家づくりの近年の集大成といえるのが、キースさんのお力も借りたニセコの3棟の住まいです。

キース ニセコにとどまらず、いま軽井沢をはじめ日本各地でもHOPの仕事は着実に注目と人気を集めています。海外のエグゼクティブたちが夢中になる石出さんの家づくりを、日本の皆さんにもっと知ってほしいと思います。

石出 このたびニセコで、そのための良い機会を設けることができました。私としては、ぜひ現物を見てお確かめください、とお願いするばかりです。キースさん、今日はありがとうございました。

キース・ロジャズ
Keith Rodgers
●TAIGA株式会社 代表取締役社長

カナダ出身。2005年からニセコ町で不動産会社に勤務した後、2008年に独立。ニセコヒラフで不動産業とプロジェクトマネージメントを営むTAIGA株式会社を設立。現在代表取締役社長。

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