美しい日本の邸宅 幻冬舎 西岡常一さんとの出会い

一般の人には、家は設計者や建築士が中心になって造っているイメージがあるかもしれない。しかし、実際には、「職人」の存在が重要だ。

戦後の経済至上主義は効率が優先され、その影響で建築でも日本の職人が守ってきた伝統技法が失われつつあった。しかし、そんな風潮に抗い、職人のすごさを訴え続けている人もいた。その一人が、西岡常一さんである。法隆寺や薬師寺の再建を手がけた宮大工の棟梁だ。

西岡さんの本を読んでかねて感銘を受けていた私は、再建工事のために薬師寺にいた西岡さんを訪ねた。快く迎えてくれた西岡さんは、「本物の素材を使って、美しく、後世に長く残るものをつくらなければならない。そのためには、図面だけでものをつくるのではなく、職人の力が大切だ」と教えてくれた。その後、我が社に籍をおいていた大工さん達を弟子入りさせていただいた。

キャンペーン・新聞広告 1998年

日本の職人は、自然素材を優れた技で活かす術を持っている。例えば、自然に割れたり傷ついたりした木材があると、図面しか書かない人間はそこを切ってしまおうと考える。しかし、一流の職人は、その部分を残しながらいいものをつくろうとする。それが日本の伝統的な美意識なのだ。今後も、その精神を忘れず、国産のいい材料を使って、いい職人とモノづくりをしていきたいと考えている。

いいものをつくるということで心がけているのが、家は施主の期待通りのものをつくっているだけではダメだということだ。一生物として愛してもらうためには、期待されている以上のものをつくらなくてはならない。想像以上の感動を与えることが出来て、はじめて成功だと思っている。

そうは言っても、実は、自分が最初に建てた家を超えられない部分がある。年月を増していくと、建物に味わいや趣が出てくる。新しいものはきれいではあるが、時を経たものに勝てないところがある。私はこれを、「古くならずに深くなる」と言っている。
「100年経っても残したい」という気持ちがこもった家こそが、本物の美しい家なのだ。

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