青山流儀Vol.14
HOP創立25周年記念特別対談
新しい住宅供給システムの開発
本物の住まいを提供し、全国へ

北海道の人工林がダメになる――。
その危機感を共有したことによる、間伐材活用のシステムづくりがHOPの原点となった。
環境共生型の強度が高く解体可能なオリジナル金物の開発。
常にイノベーションを起こしながら住まいづくりを手がけてきたHOPの草創期に産業クラスターの観点からご指導いただいた、金井一頼青森大学学長と語る。

伐採されるHOPの人工林(写真の伐採地・留辺蘂町)

住空間の分野で戦略的産業クラスターとしての事業創造を展開

金井一賴(以下「金井」) 今日、こうして話をしているHOPコンセプトハウスは3代目と聞きましたが、初代のモデルには何度もおじゃましたことを懐かしく思い出します。

石出和博(以下「石出」) 金井先生とは、そのモデルハウスで事業の方向性に関するアイデアやアドバイスなどをいただきながら、時には夜遅くまでいろいろな話をしましたね。

金井 HOPが設立されたのは1997年ですが、まさに創業期の熱気がありました。私は、釘を使わない宮大工の伝統技術など、建築について、ずいぶん勉強させていただきました。

関恵里子(以下「関」) 初代モデルハウスはお客様にご購入いただき、別の場所で建て替えられ今も大切にお住まい頂いているのですが、それが可能だったのも、金井先生に主導していただいた「北海道新住宅産業開発協議会」という場をきっかけに生まれた、解体可能なHOP金物があったからなんです。

HOP初代モデルハウス
(構造にカラマツを使用した日本初の試験住宅)
経済大臣賞授賞式にて金井先生と石出会長(2006年)

石出 HOPも早いもので、創立から25年が経ちました。金井先生に初めてお会いしたのは、その2年ほど前でしたね。

金井 私は1993年から大学で、21世紀の企業に求められる要件である「収益性」と「社会性」の両立および、それを担う中核人材について研究を行い、’94年に調査報告書「21世紀の組織とミドル:ソシオダイナミクス型企業と社際企業家へ」という報告書をまとめました。石出会長とお会いしたのはその頃です。

石出 ソシオ・ダイナミクス型企業は、事業の創造を通じて、社会問題の解決などに挑戦し、同時に利益も上げていく企業という概念でしたね。そこで、これからの工務店のあり方を考えていた私は、これだと思いました。北海道大学の研究室に金井先生を訪ねて行ったのですが、大量の本が積まれて、どこにいるのかわからなくて(笑)。

金井 よく覚えていますね(笑)。私は’90年に北海道庁から、北海道特有といえる産業の振興について検討するプロジェクトを委託され、’91に「寒冷地特有産業の振興方策に関する報告書」をまとめました。そのなかで、「住空間」、「食・健康関連」、「観光・リゾート関連」を戦 略的産業クラスターとして位置付け、その一つである住空間の分野で事業創造の具体的な展開に一緒に取り組んでくれる方を探していたところ、手をあげていただいたのが石出会長だったのです。

HOPのスタート時、金井先生がエコノミストに紹介したHOPの記事

エゾマツ・トドマツの間伐材を活用した環境共生型セミオーダー住宅を

HOPと北海道立林産試験場との共同開発によるCO2を出さない特殊乾燥釜

石出 当時、私は設計事務所を主宰していたのですが、工務店を引き継ぐことになっていましたので、新しいこれからの工務店の姿を模索していくなかで、辻井達一さん(北海道大学教授、同附属植物園長・故人)のご自宅を建築する機会に恵まれました。辻井先生から、北海道の山の人工林を適正に伐採しなければ、山がダメになる。という話を聞いたことがきっかけでした。

私の地元の芦別には、炭鉱の坑木として使うために植林された成長の早いカラマツ、トドマツが数多くありましたが、特にカラマツは反りや割れが多く、建築材としては使えないことから、炭鉱の閉山後は魚箱や製紙用チップくらいしか用途がなく、間伐も行われていなかったんです。これをなんとか活用したいと思ったのです。

■ 独自の木材乾燥処理技術で、特許も取得。

HOPでは道産カラマツなどの間伐材を、住宅の柱にそのまま使える独自の乾燥処理技術を開発して、特許を取得しています。間伐材はもともと幹が細いため乾燥時に変形しやすく、また高温乾燥では木の成分が溶け出すので、白アリやカビが発生する心配がありました。そこで木の芯を含んだ間伐材を柱状に加工し、四方向から一定の深さの溝をつくり、通常より30℃ほど低い温度で約10日間かけて乾燥させるのです。こうすることで、一本の間伐材をまるごと柱材として使うことができます。こうした技術革新により、間伐材の利用価値を飛躍的に高めました。

金井 その構想を実現化するため、産学のメンバーで1995年に立ち上げたのが「北海道新住宅産業開発協議会」でしたね。協議会では三つの目標を揚げました。一つ目はカラマツ、トドマツの間伐材を利用することで林業の振興と環境保全に貢献目すること。二つ目はユニバーサルデザインを設計コンセプトとする社会における新しい住宅を提案すること。三つ目は新建築金物の開発により強度の増強と使用建築材のリサイクルを推進しようという住宅産業のイノベーションを起こそうというものでしたね。

■ 独自の高温処理技術、精密な検査で材料強度を検証

ヤング係数測定試験
せん断強度試験
曲げ強度試験

芦別に乾燥窯3機を設置、原木から販売までを一貫させた
新住宅システム開発協同組合

石出 カラマツ・トドマツの間伐材の利用については、北海道立寒地住宅都市研究所(当時)を訪ねたことが、大きく前進する契機となりました。私は、木材の断面を三角形にして接着剤で合わせるという方法で狂いを抑えられるのではないかと考え、その案を示しながら、カラマツの間伐材利用について研究をしてほしいと嘆願したんです。

HOPグループ3社(ハウジングオペレーション、HOPファクトリー、アトリエアム)がSGEC森林認証を取得。

金井 ベテランの研究者が、まさに涙を流して喜ばれたという話を聞きました。すでにその方は、カラマツの高温乾燥技術に関する論文を持っておられて、実用化できるものになっているということでしたね。そういう方と出会えるというのは、行動力のある人に与えられるセレンディピティ=幸運だと思いました。

石出 カラマツの反りなどをなくすには、人工乾燥で水分を10%以下する必要がありますが、ただ乾燥させると割れるので、水蒸気を飽和状態にできる窯が必要というノウハウをもとに、芦別に乾燥窯を3機設置しました。

金井 そのうえで、協議会では環境共生型の住宅供給システムの基本プランを策定しました。原木の伐採・乾燥・プレカットから設計・施工・販売までをネットワーク化するという、恐らく国内では初の斬新なシステムでしたね。

HOP工法に使用される特殊継手金物
HOP特殊継手金物による建築施工現場

石出 森林所有者や林業組合の理解を得るのには、少し時間もかかりましたが、彼らとHOPが出資して「新住宅システム開発協同組合」を設立したのが1996年のこと。’97年には「林野町木材供給低コスト化総合対策事業」として認定を受けています。

金井 同業者の集まりである一般的な組合とは異なり、ネットワークで結ばれた新しいビジネスモデルという意味で、私は戦略的組合と呼んでいました。

「林野庁木材供給低コスト化総合対策事業」として認定を受けた
「新住宅協同組合」(右から2人目が石出)
HOPグループ代表CEO 石出(左)と、HOPシステムの確立にご尽力いただいた芦別森林協同組合会長 北野氏(中央)と芦別商工会議所会頭 滝澤氏(右)(1997年2月撮影)

理念が社員をまとめ自律的な行動を促すことでイノベーションが生まれる

金井 協議会、組合としての活動の核となったHOPの運営についても、経済の視点から、いろいろなお話をさせていただいたことを、改めて思い出しています。当初は、チェーン展開という発想もありましたよね。

石出 そうそう。チェーン展開で拡大させようと考えていたこともあります。

金井 議論のなかでは、HOPの住宅はどういった層をターゲットにすべきか、生産能力を考えると、数を追うことは難しい。そのうえで、デザインを重視するということであれば、高級住宅というカテゴリーでいくべきではないかという検討が続きました。

石出 高級路線ということは、早い段階から決めていました。HOPの前身の藤田工務店はお茶室を中心に手がけ、宮大工も所属していたので、デザイン的にも洗練された、本物の住まいを提供しようというのは一貫した考えでした。

金井 その結果、北海道でスタートした住まいづくりが、今では横浜・名古屋・大阪に拠点を広げ、全国区となっています。その方向性が正しかったことが証明されたともいえますね。

石出 現在、HOPの売上のうち、北海道が占める割合は30%以下。あとはすべて道外です。戦略もありますが、実はその礎を築いてくれたのが2016年に就任した関社長なんです。

金井 私は、石出会長の近くで、人事における判断なども見る機会がありましたが、関社長の就任は、なるほどと感心しました。

石出 東日本支社を軌道に乗せたのが、当時支社長を勤めていた、今の関社長なんですが、当初はなかなか思うような実績があがらないなか、とにかくやり続けるという意志が強く、ぶれなかったんですね。

 私は技術系出身ではないので、建築については素人同然でした。ただ、石出会長が築いてきたHOPのシステム、さらに理念を信じ、スタッフと共有できれば絶対に形になるという確信があったんですね。常に夢をもっていられる組織だったと感じています。

特殊継手金物について語る石出会長

金井 理念というと、「HOP精神」ですね。石出会長がこれを見せてくれた時は、強い印象を受けました。創立時から大切にしていること、見失ってはいけないことなどが、手書きで書かれていて。

石出 たとえば、お客さまの気持ちをつかむためには、当たり前ですが〝お客さまのためになること〟という精神を忘れずに、徹底する必要があります。そうしなければ遅かれ早かれ、離れていってしまうんですね。

 そうした言葉に日頃から触れることで、気持ちが揺らがなくなります。私もスタッフもこの「HOP精神」を日常的な会話の中で使用しています。軸があるから、上手くいかない時も、進む方向ははっきり見えていました。

金井 理念は、判断に迷った時に立ち返り、社員を結ぶ接着剤のようなものです。理念がしっかり浸透していれば、社員は何をすべきか自分で考えられます。そうすると、そこにイノベーションが起こりやすいんですね。社員が自律的に動ける環境。それこそが、まさにソシオ・ダイナミクス型企業といえます。

石出 私は京セラ創業者の稲盛和夫さんの経営に学ぶところが多く、「HOP精神」にも許可をいただいて一文を引用させていただいています。そして困った時には私自身、自分がまとめた理念に戻ります。もっとも最近は、私よりも関社長の方が徹底していますね。

石出会長直筆による「HOP精神」

■ 森の教室

この日本に再び、豊かな森が戻る日がくることを願い、「森をたてようネットワーク」が主催となって「森の教室」を開催してきました。

2004年
第1回「HOP森の教室 in 法然院 」
ゲスト 千宗室氏
2005年
第2回「HOP森の教室 in 法然院 」
ゲスト 故 C.Wニコル氏
2007年
第3回「HOP森の教室 in 法然院 」
ゲスト 故 立松和平氏
2008年
第4回「HOP森の教室 in 札幌 」
ゲスト大森健司氏

■ 記念植樹・植樹祭

50年後の美しい森を願って、ミズナラ、ヤチダモ、トドマツといった建築材の苗木のほか、ナナカマドやサクラなど、北海道を中心に1万本を超える若木が植えられました。

■ 木工教室・端材提供活動

建築現場から出るたくさんの端材。HOPではこれを有効利用してもらおうと、子どもたちの木工教室の材料として提供しています。

行動力とスピード、そして判断力が呼び込んだ、核シェルターの導入

金井 ところで、HOPでは現在、核シェルターの研究をされていると伺いました。

石出 そうなんです。ロシアや北朝鮮の不穏な情勢が続くなか、お客さまのなかにも家族を守る地下シェルターが欲しいという方がいらっしゃいます。調べてみると、韓国では100%以上、ヨーロッパでも60%以上の住宅が地下シェルターを備えていますが、日本における普及率は、ほんとうに微々たる数字です。これは、そこに意味を感じない建築業界の責任があります。儲からないものはやらないという。

■ 人口あたりの核シェルター普及率

出典:「NPO法人日本核シェルター協会」より

金井 HOPのオーナーのなかには、潜在的なマーケットはかなりあるでしょうね。使われることがないに越したことはありませんが、普段は地下室として利用するのでしょうか。

 そうですね、普段は地下室の他にワインセラーやストックヤードとしてご提案しようと考えています。

石出 日本で初めて国産で核シェルターを作りたいと、川崎の工場と打ち合わせをくりかえし、その国産第1号をHOPコンセプトハウスの庭に設置しているところです。

金井 このスピード感が、HOPそして石出会長らしさ、といえますね。

HOPコンセプトハウスに施工中の核シェルター

石出 芦別にカラマツの乾燥機を先行投資でつくった時のように、虫が騒ぐというか。変化に対応し、新しいものを取り入れる時の感覚のようなものは、大切にしていきたいですね。

金井 HOPの思想や活動は、アクションリサーチの場として私自身、研究でも大いに学ばせていただきました。今後も、お付き合いいただければ、うれしく思います。改めまして創立25周年、おめでとうございます。

石出・関 金井先生にご助言頂いて創り上げてきたHOPが、今後もお客様や社会から必要とされる会社であり続けられるよう努めていきます。今後ともよろしくお願い致します。本日はありがとうございました。

先進の技術とデザインが融合したHOPコンセプトハウス

プロフィール


青森大学学長、大阪公立大学大学院教授

金井 一賴 Kazuyori Kanai

日本の経営学者。博士(経済学、大阪大学)。大阪大学名誉教授。元日本ベンチャー学会会長。富良野市出身。経営戦略、企業家活動を鍵概念として地域イノベーションや多様なベンチャー創造を研究。

HOPグループ株式会社ホールディングス 代表取締役会長CEO

石出 和博 Kazuhiro Ishide

芦別市出身1989年気鋭の建築家集団、アトリエアムを率い、全国で作品を発表。1996年林野庁と北海道の支援を受け国産木材活用システム ハウジングオペレーション(HOP)を設立育てあげた。

ハウジングオペレーションアーキテクツ株式会社 代表取締役社長

関 恵里子 Eriko Seki

2002年ハウジングオペレーションアーキテクツ株式会社入社、社長室配属。東日本支社立上げに従事する。2006年HOPグループ広報統括部長に就任。新時代のウェブ営業戦略を確立する。2011年HOP東日本統括部長に就任、支社長兼務。全国展開への基盤を築く。2016年ハウジングオペレーションアーキテクツ代表取締役社長就任。


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●企画・制作・発行/ハウジングオペレーションアーキテクツ株式会社  ●青山流儀 vol.14 令和5年5月発行

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