プロフェッショナルの世界
対談 藤原 和×石出和博 備前焼陶芸作家 藤原家当代 藤原 和
備前焼と建築─自然の摂理と時間が育む、日本的美意識
絵付けもせず、釉薬を使わない備前焼。それは、素朴で、限りなく自然に近く、本物だけが持つ威厳に満ち、月日が経つほどに味わいを増していく。HOPの住まいづくりと、多くの共通点を持つ備前焼の魅力について、その思想と将来について、二代続いて人間国宝を輩出してきた藤原家の三代目であり、窯を守る和氏と語り合いました。
土作りに65年を費やす、藤原家の備前
石出和博(以下「石出」) 私が最初に出会った備前焼が、藤原建氏の作品でした。もう30年以上前のことです。その時、「なんだ、これは」といった衝撃がありましたね。
藤原和(以下「藤原」) それは、噛みつかれましたね(笑)。
石出 噛みつかれた?
藤原 藤原建の作品には毒があって、噛みつかれるとそれが体中に回って取り憑かれてしまう。
石出 たしかに、その後、備前にも足を運ぶようになったのです。
藤原 ひと口に備前といってもいろいろあって、うち(藤原家)はどちらかというとモダン。なかでも、建という人は、胆力があり、北大路魯山人に天才と言わしめた男です。
石出 藤原家の作品には何か違う力を感じます。
藤原 土は150万年かけて作られてきた田土を使い、ごみを手作業で取り除き、加工して、再び寝かせたものを陶土にしています。だいたい65年前に寝かせたものを使っています。
石出 そんなに長い時間、65年もですか。
藤原 長く寝かせないと、作品にしたあと何百年ももたないからです。あの土を使って、こんな風に焼くと、こういう感じになる。500年経つとこうなるというデータが残っているのです。
石出 長くもたせるには、そのための土の使い方がある、それは建築も同じですね。法隆寺の再建を手がけた宮大工の西岡常一さんという方が、「ヒノキは1000年以上経っても固くなっていく」と言っています。木をもたせるためにも使い方があるのです。本物を作っている人は何百年というスタンスでものを考えているのですね。
藤原 備前焼も昔の人が、長いスパンで考えてきたからこそ、1000年も続いてきたのだと思います。世界中で1000年以上、窯の火が消えたことがないのは、備前だけです。
石出 それはすごい。土のほかに、作品の出来を左右するものはあるのですか?
藤原 手かな。私たちの仕事って、手が変わると同じラインが出なくなるんです。手のもっていき方や、返し方でラインが決まってくる。0・01㎜という微妙な違いなのですが、それだけで、全然ラインが違ってくるんですよ。
焼物も建築も、本物は自然の摂理が左右する
石出 制作するのに時期とかはあるのですか?
藤原 私の場合は春に近い冬、秋に近い夏に焼きます。新月に火を入れられるように、その日までに全部成形して、窯詰めを済ませるようにしています。
石出 月の満ち欠けに合わせて制作していると?
藤原 ええ、そうです。
石出 それは驚きました。建築でも新月に切った木は、腐らず長持ちすると言われています。北海道の山で実験したことがあるのですが、実際に新月に切った木の方がそうでないものより腐りが遅いのです。
藤原 呼吸しているものは同じなのかも知れません。私は、四季とか、自然の摂理のなかで、どう自分を表現すればいいのか、よく考えます。そして、せめて自分のイメージの7割くらいには出来上がってほしいと思いながらつくる。あとの3割は、お使いいただく皆さんに育ててもらって、完成させてもらえればいいと思っています。
直して使うことで生まれる美意識がある
石出 今後の作品の方向性や夢などをお聞かせ願えますか?
藤原 備前焼でずっと使ってきた田土は最近、減ってきていますが、私には幸い、祖父や父が残してくれた田土があって、何年も寝かせた陶土も使える。その昔ながらの土で何か新しいものが作れれば、と思っています。
石出 そうやって、伝承されていくのですね。
藤原 藤原イズムといったものは、弟子たちを通してちゃんと伝えられていると思います。たとえば、備前焼にそれまでなかった丸い壺は私の親父が作りましたし、テーブルウエアもありませんでしたが、祖父は食器を作るのがすごく得意でした。そういう進取の気性は受け継がれていると思います。伝統や文化というものは、ある程度継承されつつ、変わっていくべきところもあった方がいいのですよ。
石出 私は今回、和さんの作品を手に入れさせていただき、これで藤原家親子三代が揃いました。すごく嬉しいです。
藤原 ありがとうございます。ぜひ、お使いください。でも、ある程度、価値があると思うと、使っていただけない可能性が出てくる。
石出 そうです、大事に飾ってしまいます(笑)。
藤原 その気持ちも分かります。だけど、器の気持ちとしては「使って!」、「何か盛りつけて!」と言っていると思うのです(笑)。特に備前は、皆さんと暮らすためにある器です。私も焼物が好きでよく買うのですが、そこで支払うお金は結納金だと思っています。
石出 結納金ですか?
藤原 お金を払うことで器と暮らす時間が得られる。嫁さんが骨折したら、治してあげたいと思いますよね。器も欠けることがあれば、直してずっと使えばいいのです。一枚の器を大切に使って、家族の歴史を刻んでいく。これは「我が家の自慢のお皿」だと胸を張って言える、そういう美意識がもっと育っていいと思うのです。
石出 それが、日本人の審美眼を確実に育てるのですね。私のところによく、相当傷んだ茶室を直して欲しいという依頼が来ます。いいもの、本物、気に入っているものは、何年経っても使いたいと思うんですね。そういう感覚、日本人として大切にしていきたいですね。今日はいろいろなお話ができ、ほんとうによかったです。ありがとうございました。
プロフィール 藤原 和 KAZU FUJIWARA
藤原雄の長男として備前市穂浪に生まれる。大学卒業後、帰郷。祖父啓、父雄に師事し作陶を始め、昭和58年、京都知恩院に啓・雄と共に処女作「擂座花器」を献納。その後、啓、雄の個展および記念展のプロデュースをまかされる。岡山県展初出品奨励賞、県展賞、岡山市長賞等多数受賞。