「途上の家」フリートーク 建築家 畠中秀幸 & HOP代表 石出和博

いいものは文化として残る。過ぎてゆく時とともに、
存在が深まっていく家をつくりたい。

京都で暮らした建築家・畠中秀幸が、自宅を建てるために選んだ場所は、かつて「みち」でした。犬が歩き、人が往き、車が通る。そこに暮らす人たちが行き交う道の上にこそふさわしい家をつくりたいと思いました。
京都にあこがれた建築家・石出和博は、京都で家を建てています。
伝統の街・京都の厳しい審美眼に耐え、文化として残っていけるいい仕事をしたいと思っています。
そんな二人が「途上の家」で出合ったとき、その未来に新しい道が拓けました。

木造住宅の限界に挑んだ空間構成。
夢を形に変えたHOP工法との出会い。

石出 あらためて思いますが、細長い敷地ですね。間口5メートル、奥行は45メートルくらいでしたね。

畠中さんは、建築家として自分の家を自ら設計し、私どもに施工をお任せくださったわけですが、この土地を選んだのはどういう理由だったんでしょうか。

畠中 大学時代をすごした京都の影響が大きいですね。学生時代は町屋が持っている雰囲気にあこがれて、西陣で町屋を借りて住んでいたんです。いつも比叡山が見えていて、もし家を建てるなら、変わらない景色として山が見えるところがいいと思っていました。この家も、道の先に手稲山が見えるんですよ。

石出 北海道の人なら、まずこの土地は買いませんね(笑)。京都の町屋を見てきた人だから、この細長い土地を選べたし、土地にぴったり合った建物が設計できたのだと思いますね。

畠中 京の町屋の良さと、大学時代に研究したアイヌ民族の空間構成の良さをうまくまとめられないかなと、そんな気持ちで土地を探していたら、この土地に巡り会ったわけです。一目惚れでしたね(笑)

石出 細長い土地の形状を利用して、京都の町屋のような奥行きのある家をイメージされたんですね。

畠中 ええ。もし建てるとすればコンクリートでも鉄筋でもなく、木造の家だろうと。
仕事柄、いろいろな工務店を知っていますが、僕の抱いたイメージを木造で実現してくれるところは、なかなか見つからなかったんです。そんなときに知人から「HOPはいいよ」と教えられて、すぐにモデルハウスを見に行きました。

石出 うちのモデルハウスには輻一間の吹き抜けがあったでしょう?実はあれ、町屋の路地のイメージなんですよ。

畠中 モデルハウスで柱と梁の取り合いを見て、これだ!と思いましたね。それがHOP工法だったのですが、その可能性に惹かれました。

石出 HOP工法は、伝統的な日本建築の「通し柱」という考え方を取り入れています。柱先行型の仏閣や町屋を建てるときの考え方で、京都の清水の舞台を支えている柱などがわかりやすい例ですよね。

畠中 それまでにいろいろなハウスメーカーにも図面を見せたんですが、「とんでもない。木造でこんな家はできませんよ」とか、「奥行きが長いので、途中に壁を建てさせてくれ」とか、「このままでは建物が倒れます」とか、取り合ってくれませんでしたね(笑)

石出 設計図を見たときは、私もびっくりしましたよ(笑)。確かに普通の在来工法では、これだけの空間を間仕切りの壁なしには支えきれません。「これはうちにしかできないな」と思いましたね。と同時に「やってみたい!」、「やらせてください!」と(笑)。この建物は、HOP工法の将来的な可能性を暗示していると思います。

かつて「道」だった場所だから。
人がつどい、人が交わる、道のように
開放的なコミュニティーの場でありたい。

畠中 この家はとても開放的なっくりです。見る人によっては露出度が大きくて外から丸見えじゃないか、という人もいますが、個人的な生活を見せようというつもりはないんですよ。設計上もその点はきちんと配慮してあります。

ただ、個人の家であっても、地域に向かって働きかけることはできるんじゃないかと思ったんですね。ここを地域の人たちに解放して、コンサートを開いたり、美術展をやったり、いろいろなことをするサロンとして使いたいと思っていたんです。街並みも古いし、まわりに喫茶店もないですから、近所の人たちの井戸端会議の場所になってもいいんじゃないかと思ったんですよ。

石出 家を建てるときには、本当にその人の価値観や人生観が出ますね。

畠中 そうですね。ほかの建築家が見学に来て「本当にこんなところに住んでいるんだ」と言うわけですよ。半分皮肉だとは思いますが(笑)、でも、自分が住めないような場所を設計して、売っちゃいかんだろうと思うんですね。設計者としては、デザインを売るというよりも、「こういう生活もできるんですよ」という暮らし方のスタイルまで身をもって示さない限り、力を持った設計者にはならないんじゃないかと思っています。

石出 私も設計から建築に入りましたから、畠中さんの思いはとてもよくわかりますね。イメージを絵に描いているだけでは面白くもなんともない。質感を持った形にしてこそ、いいものは時間とともに存在が深くなって、文化として残っていくんだと思うんです。

そういうことを、きちんとわきまえてつくると、畠中さんが言っているような形になると思うんですよね。何もないところから空間をイメージする人がいて、私たちはそれを形にするお手伝いをさせていただいたわけですが、業者を選ぶコツは、自分と業者の美意識とか審美眼が一緒かどうかを見るしかないと思っています。人を見るということですよね。

畠中 その点ではHOPの社貝はものすごく誠実な人が多いですね。仕事も人柄も、建築業界としては有り得ないくらい誠実でした(笑)。いいものを一緒につくりましょう、というときに同じ気持ちで仕事ができました。今後、僕が設計を依頼されたとすれぱ、間違いなく「HOPという会社があるけど、どうですか?」と薦めますね。情報を共有しながら、対話をしながら、いいものをつくっていく。その価値をわかってくださる施主の方がいれば、いい形でチームとして仕事をしていけると思っています。

設計する人、つくる人。互いが持っている技術や文化を交わしあう。

石出 畠中さんの設計思想は明快で素晴らしいですね。長い問京都に暮らして、京都の空間について考えてきた人だから、このような空間の展開が可能だったと思います。実際にこの空間を生み出すために、うちでは筋交いも何も使っていません。これだけの空間を支えるのはHOP独自の仕組みで、床と梁と柱だけで従来の3倍の強度を生み出しているからです。
畠中さんはモデルハウスで梁と柱の取り合いを見て、その技術をこの空間に活かせると直感した。これは人と人とが出会ったり恋愛するのと同じですね(笑)。「これだ!」と感じていただけた。

畠中 僕らの泄界では、「建築家と施工業者はあまり仲良くなってはいけない」といわれます。施工業者には厳しく当たれという、ある意味では建築家の側に特権意識があってそれに縛られている。私はそれがイヤなのです。建築家によっては設計した建物を「私の作品だ」という人がいますが、そうじゃない。空間をイメージしたのは僕ですが、HOPさんと一緒につくったという感じです。石出さんのシステムがなければ実現しなかった家ですから、僕だけの作品ではないという気持ちを持っています。

石出 設計と施工と、お互いプロですから(笑)。こういう斬新な設計だと、現場の大工さんたちもおもしろがって、やってみよう!って、身を乗り出してくるんです。

畠中 ええ、そうでしたね(笑)。

石出 うちには、新しいことにおもしろがってチャレンジする技術者集団がいるんですよ。

畠中 この建物を設計・施工していたときは、僕はまだ建築設計事務所に勤めていました。自分の住宅に100%つきっきりでかかわることができない状況のなかで、「自分とHOPと、お互いが力を合わせて、もの創りをしていくんだ」という意識がうまく持てたと思いますね。それと同時に、この家ができあがっていく過程を見て、「こういう建築家像が求められている」と強く思うようになりました。

石出 畠中さんのような建築家が必要ですね。地元材を使っていこうとか、自分たちで技術を磨いていこうという工務店の良さや特徴を理解して使ってくださる人、私たちを生かしてくれるような人が必要です。

畠中 実際にHOP工法の可能性を自分で確かめたことで、僕自身にとっても、今後の仕事を考える上で一つ大きな可能性が開けました。今後は、もっと見たことのないものを創れるだろうという気がしています。

音楽と建築に共通する感性。
豊かな心が、聴く人や住まう人の心に響くものを創る。

畠中 僕は音楽もやっていてフルートを演奏したり指揮もするんですが、設計の仕事は指揮をするのとよく似ていると思うんですよ。指揮者は孤独な仕事だし、一音も発しないのに、全体に対して大きな責任を負っている。「こうやれ!」という気持ちで指揮をしたときには、絶対にいい形で人は動きません。奏者たちにいかにして能動的にやりたいと思わせるかが大切です。能動的にやりたくなるような下地を準備して、その先のイメージを与えれば、あとは自ずと道が拓けていくと思っています。

建築に関しても同じで、この土地などはまさにそうですね。僕はこの土地がこうなりたがっているとしか思えなかったし、最初にここに立ったときに、こういう家が建っているのが見えましたから。

石出 なるほど、すごいすごい。索睛らしい感性ですね。

畠中 そうして、石出さんに出会って、HOPの人たちもみんな熱心に動いてくださった。そういう意味では「自然」、つまり「自ずから然り」という作用が働いたと思います。

もともとそこにあって、そうなりたがっていたものを表に出す。音楽もそういうふうにしてやりたいし、建築もそうありたいですね。建築をやるときには音楽的に考えるとか、音楽をやるときには建槃的に考えたりすると、やりやすいんですよ。

石出 そういうところに畠中さんの人間性が出るんですよね。私は建築より経営のほうに比重が移ってしまいましたが、畠中さんがつくろうとしている空間は実に素晴らしいと思い、刺激されました。このデザインを活かすために、私たちができることを、ぜひお手伝いをさせていただきたいと思いました。

畠中 ありがとうございます。僕は最近「場づくり」にしか興味がないので、建築家とか建築のデザイナーといわれるより、空間をつくっているとか、場をつくつているという認識で允分だろうと思っています。音楽と関連しますが、びっくりするのはプロの音楽家がこの家を誉めてくださることですね。非常に音楽的な空閲だと言ってくださる。

石出 それには理由があると思いますね。音楽をやる人はすごく豊かな心を持っているんです。幼少のころから美意識のある、環境のいいところで育っています。そういう人が音楽家になっているんですね。みなさん心豊かな方たちです。豊かでないと音楽はできない。そういう人たちだからこそ、畠中さんのつくるものの良さがわかるんじゃないでしょうか。

畠中 なるほど。

石出 金儲けに走りすぎるといい仕事はできませんよね。儲けることばかり考えると心が貧しくなります。畠中さんのような人が現れて、これからは本当の意味で、いい空間、豊かな街並みをつくっていく時代になるんだと思いますね。

畠中 いいものを創り出すために組織を超えて人が参集する、そういう形での建築のあり方もあるんじゃないでしょうか。理念や人間性で結びあう、組織を超えたネットワークのあり方というのも、一つの場のあり方のような気がします。

石出 私は京都にあこがれて何十年も通い続けて、京都で町屋を造りたいと思って、京都に支社を出しました。畠中さんは京都に住んでいたことがあって、京都の暮らしをよく知っていて、北悔道で京の町家を意識した建物を建てたかった。

お互いの接点というかキーワードが、京都の町屋だったというのは不息議なご縁でしたね。これからも、お互いに文化として残せるような、いいものをつくっていきたいですね。


畠中 秀幸 さん

一級建築士。スタジオ・シンフォニカ有限会社代表。建築に関わる企画・設計・監理と、音楽に関わる企画・制作・運営を行っている。

石出 和博

ハウジングオペレーション、 藤田工務店、一級廷築士事務所アトリエアムの代表。 月日がたつほどに味わいの深い家、 骨蓋品になれるほど愛沿のもてる家づくり· 建築を目指している。


Page top