材料の物語と、それを形づくる人の手による深遠な美

東京都 T邸

伸びやかな深い屋根、庇が生み出す陰影が、重厚感のある佇まいを生み出している住まい。
視線の動きによって、いくつもの屋根の重なり方が変化し、豊かな表情を与えている。パブリックなスペースは床・壁ともに全面大理石、天井はタモやイエローシーダーなど無垢の素材で構成。それぞれに、多様なデザインを駆使しながら調和を図り、重厚感を持つ格式の高い空間となっている。
一方、プライベートなスペースは、ナラやタモなど無垢の木で包み込まれた、濃密な命のエネルギーが溢れる温かみのある空間。そして、デザイン性に加え、この住まいに使われた材料が、それぞれ物語をもつ。
外壁仕上げは、イタリアのスイス国境間際で産出される花崗岩。オーナーが石切場まで足を運んで原石を確認し、採用を決めた。すべての石は、イタリアと中国で原石を購入して加工。玄関や和室に使われている幅3m、奥行き90cm、高さ15cmという巨大な大理石の框は、こうした手順だからこそ実現した。
和室の柱などは、吉野まで出向いて無節の特別な柾目の杉を入手。床の間の漆塗の地板は、輪島の職人が時間をかけて塗り上げた。
天井板と床柱は、雷で倒れた樹齢1000年の市房杉。自然から得た材料の物語、技術を駆使した人々の思いが重なり、深遠な美をもつ住まいが完成した。