回廊が創る静謐に満ちた邸宅

函館市 M邸

この邸宅はらせんの回廊を思わせる。エントランスのむこうに、ガラス戸越しの和室。足は自然と奥へと誘われる。その仕掛けは外壁の曲面壁だ。外から中へとゆるやかな流れを作り、人はその流れに沿って中へと進む。1階正面と2階屋根の深い庇が描くきっぱりした平行線と、曲面壁が、お互いの個性を際立たせる。まだ屋外でありながら、内に入り込んだ感覚を覚えるのは、庇の天井が室内の天井を思わせる板張りだからだろう。屋外と屋内を地続きにするデザインに、自然と人間を一体と考える、茶の思想が感じられる。

この邸宅は純然たる日本家屋ではない。だが邸宅全体に和の静謐を感じるのは、光と影の使い方のせいだろう。室内にも曲線を多用し動線を長くとることで、部屋から部屋への物理的な移動時間を作った。歩くうちに窓からの光の入る角度が変わり、窓の位置が変わり、影が回っていく。

モダンなリビングダイニングは思いきって影を少なく、光をふんだんに取りいれる。和の雰囲気を強く持つエントランスからは、このゾーン手前の動線部分の照明を落とし、その先に明るい光が見えて、さらに進むとリビングが視界に入る。

歩く、光と影を感じるといった、五感にささやきかけるような変化は、時の移ろいにも似ている。穏やかに続く家族の時を、どこまでも続くらせんになぞらえた家。こんなにもモダンでありながら、古き良き日本の家の懐かしさを感じさせるのはそのせいかもしれない。