和風の建築物群と豊かな緑が、すばらしい風景を形成している、歴史ある住宅地に建つ邸宅。景観を保つために設けられる建築協定・地区計画区域に該当するこのエリアが開発されて間もないころから住み続けてきたオーナーの記憶を引き継ぐことが最大のテーマとなった。長年にわたって大切に育てた庭の樹木・植栽や、愛着のある道路沿いの塀・門などこれまでの生活の一部を生かすための検討が行われた。建築する住まいと庭が最大限に調和するよう、既存の樹木や池の見え方を徹底的にスタディ。そのうえで、空間の配置・角度の調整を行ってプランを決定していった。この邸宅の建築としての一番の特徴は、深く張り出した羽目板張りの軒。和風建築ならではの輪郭を際立たせるとともに、星霜を経てきた庭にやさしさを感じる暗がり、陰影による表情を与えることにより、室内からの眺望に趣をもたらしている。内部空間も、オーナーの愛する和の設えで整えた。格天井、格子、繊細な組子、透かし彫りなど、無垢の木を用いた和的なデザインを配置するとともに、焼き物タイルを取り込むことによってモダンな雰囲気を醸し出している。人々が培ってきた土地の歴史と、長年にわたって過ごしてきたオーナーの記憶が味わいとなって、しっとりとした風情を醸し出す、落ち着きのある家ができあがった。